国境なき事務員 (国境なき医師団の事務員の現場レポート)

2018年、汐留の広告代理店から国際医療NPO「国境なき医師団」へ転職。現在、アドミニストレーター(事務員)としてケニアでのHIV対策プロジェクトで働いてます。尚、このブログはあくまで高多直晴の個人的な経験や考えを掲載しています。国境なき医師団の公式見解とは異なる場合もありますのでご了解ください。

結婚9年目で19才で5人の子持ちですけど、、、何か?

その日のボクは4回のHIV検査に立ち会った。

案内役の同僚から「次の被験者の部屋にいってみる?」といわれ検査スペースの中に入った。目のまえの二人はとても仲良さげに手を握っているカップルが座っている。

 名前はジョセフ(仮)とエリザベス(仮)。結婚して9年目のカップルとのこと。

ジョセフは現在23才、エリザベスは19才、なんと5人の子持ちらしい。いろいろと早いのね。まあここはケニアだからなぁ。

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検査を受けに来た若夫婦、ジョセフ(仮)とエリザベス(仮)

コーディネーターが説明を続ける。

「さっき検査結果が出て、奥さんの方だけHIVポジティブ(陽性)だったのよ。それでも二人とっはてもポジティブ(前向き)よ。」(えっ、この場でダジャレですか?)人口の4人に1人がHIVのこの町ならそう珍しい話ではないかもしれないけれど。ボクには人生初の体験。19才の人妻(5人の子持ち)が目の前の検査でHIVポジティブになった。その直後、当事者の夫婦と会話するなんていままでの人生では一度もなかった。ボクもコーディネーターにならって気の利いたジョークでもと思ったけれど。まあ普段できないことは、緊急事態でもできない訳で。でも沈黙は気まずいので無理くりエリザベスに「やっぱり婚約の時は夫の家族から牛もらったの?」と質問してみた。(ちなみにケニアでは婚約には男性から牛を贈る習慣があるんですよ)

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こちらが婚約の時贈られる牛(あくまでイメージ)昔々、奥さんの実家(石川県能登地方)に氷見のブリ贈ったけど、そういうカンジか?

「ウチは貧乏だから3頭だった。」とジョセフが答える。

コーディネーターが「貧乏な家の子ほど早くに結婚するのよね。婚約費用が安いから。」と付け加える。10才で牛三頭と引き換えに結婚して、その後5人子供産んで、19歳でHIVになって。凄いよ、エリザベス。ここがケニアといっても、それは凄い。そしてとりあえず夫婦仲はいいみたいだし。それが救いだぜ。

その後、二人はコーディネーターから今後の生活についていろいろ指南を受けていた。

たとえばこんな話カンジで。

ーエリザベスはできるだけ早く近くの病院で精密検査を受けるように。

ー五人の子供にも、きちんとHIV検査を受けさせるように

ー処方されるARV(抗レトロウイルス薬)はきちんと飲むように。

ー今後セックスするときは必ずコンドームをつけるように!

ーもし6人目の子供が欲しくなったら医師に相談するように。

などなど。

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クライアント(被験者)から採血するコーディネーター

一通り、説明を受けた夫婦は帰り支度を始めた。

「今日は貴重な時間をありがとう。」

隣にいた英国人医師のマイクが二人に別れの言葉をかけた。そして握手をした。

続いてボクも握手をした。HIVテストは指先から採血をするので、妻のエリザベスとの握手には一瞬ひるんだ。でもまあ隣のHIV専門医が握手をしているんだから心配ないのだろう。最後にエリザベスの手の感触がとても普通だったのが印象に残った。

 ちなみに採血は基本的に左手でおこないます。そしてケニアで握手をする場合はかならず右手でやります。