ラピュタに学ぶ「インド洋で素人が漁をしてはいけない理由」事務員の休暇
ごめんなさい、インド洋なめてました。
アフリカの漁師さんの仕事もなめてました。
「地元の漁師と一緒にマグロ漁に出たいんよね」とか言わなきゃよかった。
後悔、先に立たずとはまさにこういう事だったのね。
「この苦しみ(船酔い)から逃れられるなら土下座でもおけさでも、何でもしますけん。許してつかーさい。」
ボクは真っ暗闇のインド洋上で誰にともなく懺悔してました。
静かに出港をまつ機動巡洋艦ザンジバル号(ガンダムファーストより抜粋)
そもそもなんで「漁師とマグロ漁に出たい」なんて思ったかといえば。
おっきくなったら漁船にのって漁をしてみたいなぁと“密かな夢”をもっていて。
たまたま休暇できたザンジバルのパンべ島も手ごろな漁村だったものだからつい、
“子供の頃の夢でもかなえちゃおっかな”と思いついちゃったんです。
そこで宿屋のオヤジを通じて地元漁師にお願いしたところ30,000タンザニアシリング(13ドル)で交渉成立。
なんでも漁は夕方6時に出港して朝の6時に帰還する12時間コースとのこと。
「夜通し小型漁船にゆられるのはちょっとしんどいかもしれんけど、
まあなんとかなるじゃろ。これなら明日の昼飯は超豪華マグロトロ丼食べ放題じゃ。」
そして昨日の夕方、意気揚々と港に向かい漁師たちと合流。
乗員は船長のナセと乗組員のフィン、そしてボクの3人。
ナセの風貌はマグロを素手で殴り倒しそうなゴッツい男。
フィンはこの道60年くらいの気さくな老練ジイさんだった。
「この海でフィン爺さんが60年(推定)、無事に生きてきたのだから今夜の漁も心配ないよね。」
この道60年(推定)、フィン爺さんの後ろ姿。行先は漆黒の闇が広がるばかり。この後、不肖・高多はこの網の上で魚たちと共に悶絶することになる。
と思ったのもつかの間。
舟に乗った瞬間「これ絶対、沈む系じゃね?」との疑念を持たざるを得ない光景が。
15馬力のヤマハの船外機がついているものの、中に乗りこむとめっちゃ小さい。
ディズニーランドのジャングルクルーズの半分にも満たないサイズ。
この一個しかないエンジンとまったらどうすんじゃ?
ライフジャケットはない。浮き輪のかけらもない。
そう言ってる間にフィン爺さんがせっせとバケツで舟底の水を汲みだしている。
あぁ、水漏れもあるんかいな。なんか気分はすでに水浸しになったジャックスパロウの親父さんのようだわ。
これでインド洋で夜通しの漁なんてヤバすぎて誰も乗らんじゃろ?
(ここの漁師はみんな乗ってるけどね)
そうこうしているウチに出発進行!
さて大海に乗り出した、3人の命知らずの海の男たち。
いまにも沈没しそうな舟から目をそらし、夜空を見上げると。
薄暮の頃からから1等星があらわれて、暗くなるにつれ徐々に星の数かふえていく。
出港して40分ほどで完全に日が沈み、インド洋は空も海も漆黒の世界に突入。
その後、月も沈むと360度の天球には完全な天の川が出現。
その様はそれはそれは美しく。
「こんなパーフェクトな夜空の下ならオレでもエマ・ワトソンを口説けるんじゃないかしら?」
と錯覚するほどのロマンチックな星空が洋上をどこまでも続いている。
漁場について漁火に火をともすナセ船長。そんなに燃やして大丈夫なのかしらん?
そんなメルヘンな世界もつかの間。
出港して1時間半ほどで漁場について舟がとまると事態が一変。
舟が揺れますのよ。とても、とても揺れますの。
大波小波の文字通りの波状攻撃に心配していた木製舟の方ではなく、
あっけなくボクが撃沈。速攻で船酔になりまして。
その状況を例えるなら「永遠に続く、としまえんのパイレーツ」
最近、としまえん見ないけど元気にしてるんかな?
もう漁どころではくなり。
ひたすら水漏れする舟底に寝転がり絶えるのみ、、、
じゃなくて耐えるのみ。
英語が話せない船長のナセが「大丈夫?」(スワヒリ語で)って声をかけてくれるけど、
「船酔い、めっちゃきっついねん。もう陸に帰らへん?営業補償のお金払うからさ。」ってボクのつたないスワヒリ語では言えないので、
とりあえず必死の作り笑いで「オッケー!」とだけ返しておく。
フィン爺さん、この激しい揺れの中なんで平気なんすか?
そのウチ魚が釣れはじめ、うずくまるボクの横にピチピチとサバやらアジやら
得体のしれない熱帯魚やらが跳ねるまわるという地獄絵図、、、
ではなく極めて普通の漁師的な光景が出現し。冒頭の
「この苦しみ(船酔い)から逃れられるなら土下座でもおけさでも、何でもしますけん。許してつかーさい。」
というセリフが船酔いでグチャグチャの頭の中をリピートすることになった訳です。
ちなみにザンジバルの漁師たちは中型、大物狙いの場合は皆、カッタクリにちかい漁方。
ガスランプの漁火炊いて、竿を使わず糸とハリとオモリだけで魚を手繰り寄せるやり方で。
これはダイレクトに魚からのアタリがとれるので大物がかかると実に楽しい。
「ああ、これでマグロなんか釣った日にゃどうなっちゃうん。オレも釣りてえよお。」とは思うものの、まったく身体が言うことを聞きません。
24時をまわったころから心身ともに限界にきたのか、
天国の方向からブルーハーツ・甲本ヒロトの歌声が聴こえてきます。
朝の光が待てなくて、待てなくて眠れない夜もあった。
朝の光が待てなくて、間違ったこともやった。
(以下、繰り返し)
https://www.youtube.com/watch?v=Fih68Y0YxnE
ごめんなさい、それボクです。お願いだから早くきて、朝。
さらにたえること5時間。
もうこのころになると何がなんだかわからへんようになり。
魚にまみれながら、意識朦朧としているときやっと船長お言葉が。
「日も出て来たしそろそろ帰ろっか?ところでお前、大丈夫け?」
(スワヒリ語なのでよくわからんかったけど多分、そんなカンジ)
「オッケ~~」
新しい朝が来た、希望の朝だ。喜びに胸を開け、青空仰げ♪
死ぬほど苦労した甲斐あって、(ボクは全然釣ってないけど)そこそこの釣果になっ
た模様。
マグロは釣れなかったけど、船長は満足の笑顔だった
ザンジバル人にとっては、べつにマグロは特別な魚じゃないので、
他の魚が釣れてれば特に気にしないらしい。
マグロにこだわるのはきっと日本人くらいだもんね。
舟が動き始めると、嘘みたいに揺れが止み。
正確にいうと揺れはあるんだけど波による横揺れから、
波に乗り上げるタテ揺れに変わり。船酔いも一気に引いていきます。
やっと写真をとる気力も復活。
そして永遠とも思えた12時が終わり、港へ帰還。
マグロにカジキにブダイなどなど並ぶペンバの魚競り。
港に帰った漁師のおっちゃん達¥はそのまま魚をもって市場へ。
市場にはごっついカジキや刺身や1000人前くらいはとれそうなブダイ的ななにか、
けっこうな数のマグロも並んでる。
ボクらは釣れなかったけど、漁師仲間にちゃっかりトロを分けてもらった。
ボクはとりあえず漁で釣ったアジ数匹とハタ一匹、
そして市場で分けてもらったマグロのトロを冊でお持ちかえり。
宿のキッチンを借りてザンジバル風マグロ丼の完成。
徹夜明けの胃袋にしみわたる渾身のマグロ丼。
魂にしみいる美味なマグロ丼を噛みしめながら
ボクは初恋の人の言葉を思い出していた。
「人は土から離れては生きていけないのよ。」
やっぱジブリ女子の中ではシータが最高や!
シータ、キミがボクに残してくれた言葉の意味はそういうことだったんだね。
揺れない陸って、最高だ!