国境なき事務員 (国境なき医師団の事務員の現場レポート)

2018年、汐留の広告代理店から国際医療NPO「国境なき医師団」へ転職。現在、アドミニストレーター(事務員)としてケニアでのHIV対策プロジェクトで働いてます。尚、このブログはあくまで高多直晴の個人的な経験や考えを掲載しています。国境なき医師団の公式見解とは異なる場合もありますのでご了解ください。

問題:医者がストライキをするとどうなるでしょう?

ボクらが活動支援している公立ホーマベイ病院の職員がストライキに突入してから今日で10日目。しかも今年にはいってからこれが2回目。原因は給料の遅配です。ここ2ヵ月の間、公立病院の職員(つまり公務員)は給料をもらっていないんですよね。ケニアに限らず世界のほとんどの国の法律は医療関係者のストは禁止してるけど「そもそも給料が払わられていない時点で雇用契約が成立してないんじゃね?」ってことで現在、病院職員たちは厚生省相手に裁判中。そしてスト決行中です。

 

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普段は満床のHIV病棟も今は廃院と見間違うほど。帰るあてのない患者が一人だけ病棟のベッドに横たわっていた。

 

さてここで問題です。

医者(を含めた病院関係者)がストライキに突入するとどうなるでしょう

 

答え:

入院患者のご飯がまかなえない。

シーツや包帯やトイレットペーパーの交換・補充がない。

外来を受け付けない、

盲腸になっても手術してくれない。

体育で骨折してもギブスしてくれない。

だれもレントゲンやCTスキャンをとってくれない。

死にかけている患者も一時帰宅するか費用がかさむ私立病院に転院するしかない。

結果、患者の死亡率が上昇する。

 

日本人含めて先進国の住人からすると「患者を見捨ててストなんてありえない!」と思うでしょ。いや先進国じゃなくても普通の感覚ならありえないって思います。それはケニアでも同じ。自分たちがストをすれば患者がどれだけ困るかはもちろん職員も分かっています。彼らも好きでストをやってるわけじゃない。罪悪感だってあります。中にはスト破りして病院にでてくる職員もいます。一方で給料が2ケ月振り込まれてないっていう、ありえない状態が続いているのも事実。f:id:st-maria1113:20181117023801p:plain

普段は一つのベッドを二人で使うこともあるのだけれど、いまは閑散。

 

債務超過とインフレと公金横領が三本セットの慢性的な財政危機にあるケニアでは公務員への遅配は日常茶飯事。役所が発行した小切手が幹部職員の横領が原因で不渡りになることもあります。職員の多くは日本と同様にいろんなローンを抱えているし、それが滞れば銀行から督促も来る。子供たちの授業料の振り込みもある。これではクリスマスプレゼントどころか、今日の晩飯が食べれないってことになるわけです。もう他人の世話どころじゃなくなります。

だから「患者には気の毒だけどもう、やってらんねぇ!」

というのもわからなくもない。

 

ちなみに国境なき医師団のスタッフには皆さまからの貴重な寄付のおかげで、ちゃんと滞りなく給料が振り込まれております。なのでちゃんと働いています。ストライキのシワ寄せは公立以外の医療関係者にダイレクトに波及します。特に遠隔地医療チームでは土日返上で働くスタッフも増えます。それでも数百人いる厚生省スタッフ分を補うことには当然無理があり、状況は厳しくなるばかり。

 

それにしても「治療しないと死ぬかも」という状態で自宅に戻される患者さん、小児病棟から子供を連れてかえる親御さん、ギリギリまで生活が追い込まれ患者を自宅に戻すしか選択肢がなくなった病院職員の気持ち。それを思いやると腹が立つというか、もどかしいというか、しっかりしろよケニア政府というか。そんな訳でこのところウチのスタッフもメディカルチームを中心にイライラが募っています。

 

長いオマケの解説:

 この公立ホーマベイ病院は国境なき医師団(以下MSF*1)がサポート業務を行っているこの地域の中核医療施設。MSFは難民キャンプなどでは自前で病院運営しているところもありますがケニア・ホーマベイのプロジェクトでは資金的に単独の病院運営ができないという理由と、地域の病院の自律的な活動を促すために厚生省(Ministry of Health)と協力体制をとり公立病院の支援というカタチをとっています。現在は診療所の建設、HIV治療に特化した薬や医療機器の提供のほか、医療人材(医師、看護師、研究者など)の提供のというカタチで病院運営を支援しています。

しかしストライキになるとそもそもの支援相手が機能停止してしまうので実際の治療活動は大きく制限されてしまいます。

そしてケニアの場合、公立病院ではたらくスタッフは医師も調理師も救急車のドライバーも厚生省と契約している公務員になります。ですから一旦ストに突入すると病院機能はマヒしてしまいます。

いずれにしても患者の死に直結する医療関係者のストライキを目の当たりにするといろいろずっしり重いですね。

 

ラピュタに学ぶ「インド洋で素人が漁をしてはいけない理由」事務員の休暇

ごめんなさい、インド洋なめてました。

アフリカの漁師さんの仕事もなめてました。

「地元の漁師と一緒にマグロ漁に出たいんよね」とか言わなきゃよかった。

後悔、先に立たずとはまさにこういう事だったのね。

「この苦しみ(船酔い)から逃れられるなら土下座でもおけさでも、何でもしますけん。許してつかーさい。」

ボクは真っ暗闇のインド洋上で誰にともなく懺悔してました。

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静かに出港をまつ機動巡洋艦ザンジバル号(ガンダムファーストより抜粋)

 

そもそもなんで「漁師とマグロ漁に出たい」なんて思ったかといえば。

子供のころから日本海イカ釣りの漁火を見て育ったボクは、

おっきくなったら漁船にのって漁をしてみたいなぁと“密かな夢”をもっていて。

たまたま休暇できたザンジバルのパンべ島も手ごろな漁村だったものだからつい、

“子供の頃の夢でもかなえちゃおっかな”と思いついちゃったんです。

そこで宿屋のオヤジを通じて地元漁師にお願いしたところ30,000タンザニアシリング(13ドル)で交渉成立。

 

なんでも漁は夕方6時に出港して朝の6時に帰還する12時間コースとのこと。

「夜通し小型漁船にゆられるのはちょっとしんどいかもしれんけど、

まあなんとかなるじゃろ。これなら明日の昼飯は超豪華マグロトロ丼食べ放題じゃ。」

 

そして昨日の夕方、意気揚々と港に向かい漁師たちと合流。

乗員は船長のナセと乗組員のフィン、そしてボクの3人。

ナセの風貌はマグロを素手で殴り倒しそうなゴッツい男。

フィンはこの道60年くらいの気さくな老練ジイさんだった。

「この海でフィン爺さんが60年(推定)、無事に生きてきたのだから今夜の漁も心配ないよね。」

 

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この道60年(推定)、フィン爺さんの後ろ姿。行先は漆黒の闇が広がるばかり。この後、不肖・高多はこの網の上で魚たちと共に悶絶することになる。

 

と思ったのもつかの間。

 

舟に乗った瞬間「これ絶対、沈む系じゃね?」との疑念を持たざるを得ない光景が。

15馬力のヤマハの船外機がついているものの、中に乗りこむとめっちゃ小さい。

ディズニーランドのジャングルクルーズの半分にも満たないサイズ。

この一個しかないエンジンとまったらどうすんじゃ?

ライフジャケットはない。浮き輪のかけらもない。

そう言ってる間にフィン爺さんがせっせとバケツで舟底の水を汲みだしている。

あぁ、水漏れもあるんかいな。なんか気分はすでに水浸しになったジャックスパロウの親父さんのようだわ。

これでインド洋で夜通しの漁なんてヤバすぎて誰も乗らんじゃろ?

(ここの漁師はみんな乗ってるけどね)

そうこうしているウチに出発進行!

 

さて大海に乗り出した、3人の命知らずの海の男たち。

いまにも沈没しそうな舟から目をそらし、夜空を見上げると。

薄暮の頃からから1等星があらわれて、暗くなるにつれ徐々に星の数かふえていく。

出港して40分ほどで完全に日が沈み、インド洋は空も海も漆黒の世界に突入。

その後、月も沈むと360度の天球には完全な天の川が出現。

その様はそれはそれは美しく。

「こんなパーフェクトな夜空の下ならオレでもエマ・ワトソンを口説けるんじゃないかしら?」

と錯覚するほどのロマンチックな星空が洋上をどこまでも続いている。

 

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漁場について漁火に火をともすナセ船長。そんなに燃やして大丈夫なのかしらん?

 

そんなメルヘンな世界もつかの間。

 

出港して1時間半ほどで漁場について舟がとまると事態が一変。

舟が揺れますのよ。とても、とても揺れますの。

大波小波の文字通りの波状攻撃に心配していた木製舟の方ではなく、

あっけなくボクが撃沈。速攻で船酔になりまして。

その状況を例えるなら「永遠に続く、としまえんのパイレーツ」

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最近、としまえん見ないけど元気にしてるんかな?

 

もう漁どころではくなり。

ひたすら水漏れする舟底に寝転がり絶えるのみ、、、

じゃなくて耐えるのみ。

 

英語が話せない船長のナセが「大丈夫?」(スワヒリ語で)って声をかけてくれるけど、

「船酔い、めっちゃきっついねん。もう陸に帰らへん?営業補償のお金払うからさ。」ってボクのつたないスワヒリ語では言えないので、

とりあえず必死の作り笑いで「オッケー!」とだけ返しておく。

 

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フィン爺さん、この激しい揺れの中なんで平気なんすか?

 

そのウチ魚が釣れはじめ、うずくまるボクの横にピチピチとサバやらアジやら

得体のしれない熱帯魚やらが跳ねるまわるという地獄絵図、、、

ではなく極めて普通の漁師的な光景が出現し。冒頭の

「この苦しみ(船酔い)から逃れられるなら土下座でもおけさでも、何でもしますけん。許してつかーさい。」

というセリフが船酔いでグチャグチャの頭の中をリピートすることになった訳です。

 

ちなみにザンジバルの漁師たちは中型、大物狙いの場合は皆、カッタクリにちかい漁方。

ガスランプの漁火炊いて、竿を使わず糸とハリとオモリだけで魚を手繰り寄せるやり方で。

これはダイレクトに魚からのアタリがとれるので大物がかかると実に楽しい。

「ああ、これでマグロなんか釣った日にゃどうなっちゃうん。オレも釣りてえよお。」とは思うものの、まったく身体が言うことを聞きません。

 

24時をまわったころから心身ともに限界にきたのか、

天国の方向からブルーハーツ甲本ヒロトの歌声が聴こえてきます。

 

朝の光が待てなくて、待てなくて眠れない夜もあった。

朝の光が待てなくて、間違ったこともやった。

(以下、繰り返し)

https://www.youtube.com/watch?v=Fih68Y0YxnE

ごめんなさい、それボクです。お願いだから早くきて、朝。

 

 

さらにたえること5時間。

もうこのころになると何がなんだかわからへんようになり。

魚にまみれながら、意識朦朧としているときやっと船長お言葉が。

「日も出て来たしそろそろ帰ろっか?ところでお前、大丈夫け?」

スワヒリ語なのでよくわからんかったけど多分、そんなカンジ)

「オッケ~~」f:id:st-maria1113:20181018201231p:plain

新しい朝が来た、希望の朝だ。喜びに胸を開け、青空仰げ♪

 

死ぬほど苦労した甲斐あって、(ボクは全然釣ってないけど)そこそこの釣果になっ

た模様。

マグロは釣れなかったけど、船長は満足の笑顔だった

ザンジバル人にとっては、べつにマグロは特別な魚じゃないので、

他の魚が釣れてれば特に気にしないらしい。

マグロにこだわるのはきっと日本人くらいだもんね。

 

舟が動き始めると、嘘みたいに揺れが止み。

正確にいうと揺れはあるんだけど波による横揺れから、

波に乗り上げるタテ揺れに変わり。船酔いも一気に引いていきます。

やっと写真をとる気力も復活。

そして永遠とも思えた12時が終わり、港へ帰還。f:id:st-maria1113:20181018201526p:plain

マグロにカジキにブダイなどなど並ぶペンバの魚競り。

 

港に帰った漁師のおっちゃん達¥はそのまま魚をもって市場へ。

市場にはごっついカジキや刺身や1000人前くらいはとれそうなブダイ的ななにか、

けっこうな数のマグロも並んでる。

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ボクらは釣れなかったけど、漁師仲間にちゃっかりトロを分けてもらった。

 

ボクはとりあえず漁で釣ったアジ数匹とハタ一匹、

そして市場で分けてもらったマグロのトロを冊でお持ちかえり。

宿のキッチンを借りてザンジバル風マグロ丼の完成。

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徹夜明けの胃袋にしみわたる渾身のマグロ丼。

 

魂にしみいる美味なマグロ丼を噛みしめながら

ボクは初恋の人の言葉を思い出していた。

「人は土から離れては生きていけないのよ。」

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やっぱジブリ女子の中ではシータが最高や!

 

シータ、キミがボクに残してくれた言葉の意味はそういうことだったんだね。

揺れない陸って、最高だ!

すこしマジメな仕事の話 ー「サワコの朝」のゲスト・大江千里がエラく格好良かった

 今回は「そこそこいろんな人に迷惑かけて。それでも好きで転職したんだから、そして今、憧れの職場にいるんだから、もっと一生懸命、働かなきゃいかんな。」という話なんですが。

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遠隔地診療のハブ施設。スタッフの人数が多いときは屋外テントでランチ。雨が降るとちょっと文字通りドロドロなので整備したいけど、なかなかそこまで手とカネが回せない。

 

その前に話のまくらを少々。皆さんにはどうでもいい話ですけど、実はボク、阿川佐和子さんのファンなんです。NEWS23以来だから、かれこれ30年来。こっちに来てから仕事で気分が落ち込むことがあるとYouTubeで「サワコの朝」を見みてライフゲージを回復させてるんですが。今日はそんな落ち込んだ週末を過ごしていて。そして今回のゲストは大江千里。(今回といっても実際のOAは2017年1月)

music-book.jp

 さてこの大江千里氏、僕と10歳違いの1960年生まれ.元シンガーソングライターで今はNYでジャズピアニストやってます。サンドウイッチマンの伊達さんと同級生の田上君がカラオケでよく歌うのと。高校生の頃、夕方聞いていたNHKーFM(鳥取ローカル)のDJをやっていた可愛いアニメ声のオロロンさん(大江千里と同じ関学出身)が彼のことを好きでよく曲を流していたので、なんとなく馴染みがあり。

 兎に角、今週はゲストが大江さんの放送回を見まして。最初は「阿川さんの前でカッコよくジャズピアノ弾いてるよ。しかも阿川さん、いつもよりちょっと楽しそうじゃん。ちきしょー羨ましいぜ、大江千里。」みたいに思ってたんですけど。彼のジャズピアニストへの転職のいきさつやら、NYでのジャズ(学校)生活の話が進むにつれ。あれ、大江さんって、もしかしてスゴイ人なの?という展開へ。

www.youtube.

この歌を聞いた時「別れて初めて気がついた。」っていう歌詞がスゲー引っかかって。「別れてはじめて」ってことは、テメー一度、つきあってんじゃねーかよ。全然、いいじゃん。カッコ悪くねーよ。大概の男子は別れる間もなく速攻フラれるんだから(ソースはオレ)、とか思ってひがんでた。

 ポップのシンガーソングライターからNYのジャズピアニストに転職って広島カープからロサンジェルスドジャーズへの移籍みたいに、同業他社へのサクッとした転職程度に聞こえなくもないんですが。全っ然、違ってるみたいで。同業他社といっても海上自衛隊イージス艦の乗組員から、ロシアのスペツナズ(特殊部隊)の隊員に転職するくらいまったく別物らしくて。なので大江さん、イチからジャズの勉強するためアメリカの音楽大学に入学したらしいんです。最初はジャズのコード進行の指使い(ポップやクラシックとは全然違うらしい)を18歳の同級生クンから教えてもらうくらい初歩からのスタートで。ほかの同級生から格下扱いされたりもして。あの「十人十色」や「格好悪いふられ方」を作った、渡辺美里の「10years」や「夏が来た!」も作曲した、松田聖子中島愛マクロスFランカ・リーでもお馴染み)にも楽曲提供したあの大江千里が音楽業界で若造音大生から格下扱いって受けるってもはや意味不明ですけど。それくらい最初の2,3年はメチャクチャ大変だったようで。本人曰く「学校に通うがホント憂鬱だった」と。それでもものすごくピアノ頑張って。4年間かよって卒業して。今はちゃんとアメリカでジャズピアノで飯食ってて。昔は「格好悪いふられ方」とかしてたのに、今、めっちゃカッコいいじゃん、大江千里氏。

Boys mature slow /Senri Oe - YouTube

www.youtube.com

そして現在の大江千里。なんだよそれ。あんたカッコよすぎや。

そして奇しくも、彼が事務所をやめて、なんやかんや捨ててアメリカの音楽学校に入ったのが47歳の時で。ボクと大江さんでは仕事内容とか、実績とか、人間的なアレコレとか、歌唱力とか、いろいろ全く、全然違うんすけど。でも47歳で転職ってとこだけはボクと同じで。おお、仲間!みたいな。

 

さてここから、いきなり本題にはいるんですが。

今週、職場で新しい会計システムの導入があって、ボクら事務方はいわゆるパソコンの研修を受けていたんですけど。正直、ちゃんとついていけてない。なんとかケニアのナショナルスタッフに助けてもらって、生き延びてる状態で。新システムの導入といっても、赴任からの4カ月間ちゃんと頑張ってたら多分ここまで苦労することはなかったハズで。会計や医療用語(英語)にもちゃんと慣れて、覚えておかなきゃいけなかったんだけど。でも気づいたら日々与えられた仕事をこなすだけの生活になってて。デカい会社での生活が長かったせいかプライドの燃えカスみたいなのも残ってて。どこかで仕事を舐めてたのかもしれませぬ。f:id:st-maria1113:20180827023847p:plain

これがボクのデスク。ヘビー級のThink PadでWINDOWS7が活躍中。かなりOLD SCHOOLっス。(機密保持のため一応ボカシ入り。)

ところで前職の電通には鬼十則(世間ではいろいろいわれてるけど、古株の社員ならDNAに沁みついている家訓みたいなヤツ)があって。

その1番目と2番目にはこう書かれています。

1. 仕事は自ら創るべきで、与えられるべきでない。
2. 仕事とは、先手先手と働き掛けていくことで、受け身でやるものではない。

でも「ケニアでは全然出来てないじゃん、オレ。」

 

プロジェクトのカネの責任を担ってる事務方が、数字に細かく目を通して、先手を打ってこまかく執行予算を管理・節約すれば、そのお金はどこかの別のプロジェクトの緊急用栄養フードや薬が買えたり、どこかの看護師を増員できたりする。税務処理やらスタッフのシフトやら役所との費用調整やら、経費全般をしっかり把握して削減すれば、そのカネはメディカルチームの助けになって.結果的に誰かの命が助かる可能性を高くなる。ボク自身、本当はもっとできることがあったんじゃないかと。いやすべきことは確かにあって。今週はそんな単純な事実を突きつけられた一週間だったので。

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ここはメディカルチームが活動するホーマベイ病院。地域住民にとってこの病院はまさに命綱。ちなみにOPERATING THEATREというのは手術室のこと。

 

そして大江千里の話を聞いてライフゲージが回復するどころか、さらに落ち込んでしまったのですが。とはいえ落ち込んでいても予算の管理はできないので。ジャズピアニスト・大江千里を見習って、月曜からまた仕事頑張ろうと思うっス。

 

国境なき医師団の予算管理について(一応、誤解がないように補足しますと)

弊団はボクが知っている民間企業や国際機関にと比べると格段に節約していると思ってます。例えばケニアでの国内出張は多くの場合、車移動なのでナイロビ出張の度に片道8時間ほど車に揺られます(ちなみに飛行機だと45分!)。出張先ではホテル利用は極力避けて、出張先の宿舎で共同生活が基本です。海外移動は法人提携している航空会社の格安エコノミーで移動。物資調達ではかなり低額のものでもキッチリ事前見積チェックして、多くの場合、見積もり競合を行います。外国人スタッフの人件費も他のメジャーなNGOや国際機関との比較では、だいぶん下方に位置していると思います。ただそれでも無駄とういのはどこかで生じてしまうというのも現実で、そこが悩みどころ。

今さらL’Arcのhydeになりたくてドレッドにしてみたら、

この「L’Arcのhydeになりたくて」というタイトルだけで世間様から「オマエ、もう死んでいいよ。」という言葉が聞こえてきそうですが。まあその辺はテキトーに聞き流してですね。先週hyde風ドレッドしちゃいました。

 

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アフリカの大地たたずむと何かと無謀な挑戦をしたくなるんすよね。

そもそもラルクのファンでもなんでもない。曲とかも全然知らないボクが何故にhydeになりたくなったかというと。それは先週の金曜日のこと。「久しぶりにカラオケでXJapanの紅でも歌いてえなぁ。でもカラ館も新宿リボン(歌舞伎町のコスプレ・カラオケバー)もケニアにはないしなあ。」とか思って。仕方なく自室にこもってYoutube「紅」動画見ながら1人歌ってたんです。そしたらその流れでラルクが出てきて。

やたらカッコいいドレッドのボーカルが野外ライブしはじめたんです。それみてもう一目惚れ。「なんだこのカッケー、ニイちゃんは?」ボク、最近までのラルクhydeとXのHIDEの違いすらわかんかったくらいで。まじまじと"hyde"をみたのはそれが初めて。四半世紀分ほど遅れて衝動的に思っちゃったんです。

「あぁ、オレこのボーカルの人みたいになりたい。」

アフリカに来てから4カ月。最近いろんな状況にちょっと飽きてきてて。ここらで一発、人生に変化が欲しかったんでしょうね。そんな気分の時にちょうどhydeがあらわれて「変わるならコレだな」みたいに思ってしまったんです。紅、絶唱後だったので多少、脳ミソもいっちゃってたのかも。

 それにしても

18才の頃は「ドブネズミみたいに、美しくなりたい。」と思っていたのに、

48才になる今になって「ハイドみたいに、美しくなりたい」と思っているとは。

ボクはどこで、どう間違ってしまったんだろう。

とはいえ「人生は間違いも、失敗も全てに意味がある」みたいなことを鎌倉の偉いお坊さんが言ってたので。ボクがhydeになりたいと思ったことにもきっと意味があるハズ、と信じたい。

で善は急げ。早速、hydeのドレッドヘア写真を片手にナイロビの美容室に直行しまして。受付のお姉さんにお願いしたんです。

ハロー、このフォトの兄ちゃんみたいな髪型にしたいんやけど?

えーっとスミマセン、お客様。言っている意味がよくわかりませんが。

ほじゃけん、エクステつこーてこの兄ちゃんと

おんなじ髪型にしてくれっちゅーとるんよ。

店長ぉ、、、なんか変なお客さん来ちゃったんで、店長が相手してもらえますかぁ。

ということで店長登場。

お客様。今日はどういったご要望で。

だからさ、この写真の兄ちゃんみたいにしてほし

いんすよ

ほお、面白そうやねえ、OK!

ということで店長登場であっさり商談成立。

 

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エクステのドレッドは二人がかりで二時間ちょい。店長曰く「こんなん女の子にしかしたことあれへんで」

店長の説明によるとボクの髪はエクステには少し短いけど、なんとかなるハズ。

ただこのボーカルのエクステはかなり長いから髪結いも

 二人がかりで二時間くらいかかるらしい。

ということでエクステ&ドレッド作業開始。

 二時間の時を経て、ケニア版のhydeが完成、、、

 

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カラーだとアップに耐えられなかったので掲載はモノクロで。なんかインチキ書道家のプロフィール写真みたいになっちゃった。

のハズがどうみても写真のhydeと鏡の中のボクは同じ惑星の住人とは思えない。

なんてこったい、、、むしろ「海街Diary」の福田のおっちゃんじゃね?

(ちなみに映画ではリリーフランキーが演じてました。話はそれるけどリリーさん、最近、男性版の樹木希林みないなポジションになってるよーなきがするなぁ。)

 

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海街Diaryの福田仙一氏。カレはカレで味があるんだけど、、、。

その後、このドレッドの思わぬ二次的な効果があって。

実はケニアでは日本人とか中国人とかまあアジア人全般に対して(それはひどい)人種差別が蔓延していて。

一日に(マジで)10回くらい「チンチョン」(中国人への蔑称)とか「カラテ見せろー」とか言われて、更にいきなり空手で挑みかかるヤカラもいる始末。

でもラルクhyde 海街の福田のおっちゃんヘアにしてから、これが一気に激減!

 街を歩くとあのウザい「チンチョン」の代わりに「ヘイ、ラスタマン!」「その髪型いいねえ!」「めっちゃクールやん!」とやたらと声をかけられまくりで。それは、おそらくラスタ文化(ラスタファリ)がケニアで深く広く定着していることが影響しているとおもわれ。ちなみにラスタファリっていうのは、あのボブマーレーが歌っていたレゲエ音楽の元にもなってるアフリカ回帰の宗教文化運動なんですけど。

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ボブマーレーのイラスト入りミニバス。ラスタ&レゲエ系のペイントはアフリカ全般でかなり人気。やたらとジャマイカ国旗とボブマーレーを見かけます。

スゲー乱暴に説明するとラスタファリズム=アフリカ最高!っていう考え方で。つまりドレッドヘア=ラスタマン=アフリカ最高主義者(=めっちゃアフリカ好きなオヤジ)という図式が、彼らの中で勝手に出来上がるようです。

それに男子の坊主率99.9%という男子全員が坊主国家のケニアでは長髪、ポニーテールのおっさんという存在自体が本当に珍しいようで。中国系とかカンフー系という既存イメージをブッ飛ばすほどラスタ系のインパクトがあった模様。事の良し悪しはおいといて強い外見的な個性ってのは、ちょっとしたレイシズムなら超越するインパクトがあるのかも。

どうせなら、このまま地毛延ばして本物のドレッドにしちゃおうかなあ。

 

年間2000人のレイプ被害者の診察を行うSGBV診療科

 休暇初日はナイロビに立ち寄った。

 行先はナイロビの巨大スラム、マザレ地区で運営している国境なき医師団の診療所だ。新聞記事や内部資料などを通じて知識としてスラムの医療活動のことは知ってはいたけれど。機会があれば、自分の目と耳を通じて知っておきたいと思っていて。まあ単純にボクが働くHIVプロジェクト以外の活動(難民、貧困、飢餓対応など)はどんな事をやっているんだろう、と興味があったんです。

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Wikiから借りてきたマザレのスラムの写真。水道はあるが、電気はほぼ来ていない。


このマザレ地区のプロジェクトでは日本人看護師(Head of Nurse)のトモミさんが働いていて。今回は彼女に無理いってマザレの診療所を案内してもらいました。小柄で可愛らしい看護師さんだけど実はケニアの前は南スーダンとシリアのミッションに参加していた”歴戦の勇士”。人はみかけによらないものだとつくづく思います。彼女によるとこのスラム地区の診療所では主に3つの活動を行っているとのこと。

 

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セキュリティー確保のため出入口はこの鉄扉のみ。他に看板もなにもなく、銃持ち込み禁止のステッカーが張ってあるけれど。どうみても病院の入り口に見えませぬ。



①(救急)外来の受付

管轄するマザレ地区で起こった交通事故、喧嘩、ドラッグトラブルによる被害、銃撃(主に警官に撃たれる。)などの外傷治療がもっぱら。そのスラムの住人の救急搬送も無料提供している。

 

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外来受付と治療室。金曜の夜ともなると酔っぱらいのケンカ(ナタで殴り合い)やドラッグトラブル(多くは銃創)などで混雑する。

結核病棟の運営

結核は空気感染するので緊急外来とはスラム内の別の施設がある。

アフリカの多くの国ではHIV感染後にAIDS発症して免疫力が低下、その後、結核に感染し死亡するケースが圧倒的に多い。(AIDS発症患者の30%-40%が結核になってしまう。)

参考HP:結核は世界の問題|大塚製薬

 

③SGBV・性暴力診療科

SGBV(Sexual and Gendar Based Violence)というのは一言でいうとレイプ被害者の心身の治療を行う診療科このと。スラム地区とその周辺でレイプ被害にあった患者を対象に治療を行っている。特に心理ケアについては専門カウンセラーと精神科医のタッグチームで対応している。またケースに応じて地元警察との連携もはかっている。

 

さて本題SGBVについて。

マザレ地区の人口はおよそ60万人で杉並区とほぼ同じです。SGBVについていえば2017年はウチの診療所だけで2000人以上のレイプ被害者が診察と治療を受けています。ちなみに去年の最年少の患者は三歳児だった。もちろん診療所に来ていない患者も大勢いるので被害実数はこれよりはるかに多い。例えば杉並区のひとつの診療所で年間2000人以上のレイプ患者を受け入れてるなんて事になったら、もうそれはあり得ないほど壊滅的な社会状況だと思うのだけれど。そんなありえない状況が起こっているのがここの診療所でした。

 

実際、ボクが案内された時も待合室には4人の女性がいて。その内3人はおそらく10代で、さらに一人は明らかに10代前半だった。知らなければ中学校の保健室と見間違うほどだ。そして彼女たちと目が合う。控えめな表現でも「最悪な経験」をしたばかりの彼女たちに「How are you?(気分はどう?)」などという訳にもいかず、かるく「Hello」とだけ挨拶を交わした。「他のプロジェクトを見ておきたい。」ということでスラムの診療所を訪問してみたものの、こういう事態は想像していなかった。

 

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SGBV診療科の一角。右側がカウンセリングルームで左側が精神科医の診断室。プライバシー確保のため基本的に患者と関係者以外立ち入り禁止。

彼女たちは初診で外傷の診断のほか被害状況のヒアリングと専門家による心理カウンセリングを受ける。レイプ被害者の状況は一様ではないので患者一人一人に応じたケアプログラムを組み、それに沿って二回目以降の治療が進められる。性感染症や妊娠がある場合は心理ケアと同時にそちらのケアも並行する。そして性感染症と一言でいっても、日本と違いナイロビのスラムでは深刻な病名も多い。代表的なのはHIVと肝炎。HIVは放置すれば致命傷になるし、肝炎に感染すれば将来的に肝臓癌のリスクが跳ね上がる。

 

レイプが元でHIVや肝炎になるなんて「最悪の中の最悪」なのだけれど、年間2000人も患者がいれば少なからずそういうケースにも出くわすらしい。今回、興味半分で訪問したスラムの診療所。当初は「自分の目と耳できちんと知っておきたい」などと呑気なことを思っていたのだけれど。いざ現実を目の当たりにすると「知っておきたい」などという自分の浅はかさを知るばかりで。今回、ボクはほとんど何も知ることが出来なかったように思う。

 

ー待合室の彼女たちはどんなおもいでいるのか?

ー何故、男たちはこうも頻繁にレイプを繰り返すのか?(ホンマ、何考えとんねん!)

ーそもそもボクはなんで赤の他人のレイプ被害のことをブログで書いてるんだっけ?

 

正直、そういう基本的なことは全然わかりませんでした。自分は全然知らないんだなあということだけが分かったような。そんな訪問でした。

 

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スラムと道を挟んで反対側にあるのがイスリーと呼ばれるイスラム系住人の地区。待合室でみた女の子と同い年くらいの子が談笑していた。

それでも、こういう事実があるってことは、ほかの日本人やほかの先進国の住人に伝えたいとういう衝動のようなものがボクの中に生まれまして。遥かアフリカでの地で女の子が何千、何万人レイプされても、まあ日本の日常生活にはたぶん1ミリも影響はないのだけれど。アメリカやEUでは一時、#Me Too が大きなニュースになったりしてたけど。レイプ経験者が4人に1人といわれるケニアのスラムではme tooだらけで全然ニュースにもならない、ということを何となく知ってほしかったんですよね。

 

 

病院でHIVテストを受けてきたっス。

先週、運営している病院でHIVテストを受けてみたっス。実はこれが2回目。一回目は4月に受けてまして。なぜボクが4月にHIVテストを受けたかというと「もしかしたらワシ感染したかもしれん」という”心当たり”があったからなんです。

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HIVは基本的に血液感染なので原因のほとんどはセックスなどの皮膚接触の際に血液が体内に入り込むことで起こります。つまりお互いの皮膚表面の(毛細)血管が摩擦によって破れて出血し、そこからウイルス感染するんですね。(母子感染や注射針の使いまわしなどほかの感染原因もあるけど。成人の感染経路はほとんどがコレ)。裏を返せばどんなにHIVポジティブの罹患率が高い地域で暮らしていても、注射針を使ったドラッグや買売春などせず普通の生活をしてる限り、SEXの際コンドームをつけていれば感染するリスクは非常に低いのです。一般人は誰かと拳を交えた血みどろの戦いを日々を送る“ストリートファイター2”や“鉄拳”(詳しくは下記「ハイスコアガール」参照ください)のような特殊な生活でもなければ、ほとんどの場合、感染しません。

 

f:id:st-maria1113:20180708151017p:plainゲーム漫画の金字塔「ハイスコアガール」連載復活してホントよかった!

 

そんでもって、ボクの”心当たり”はセックスではなくちょっと特殊な状況の方でして。特殊といってもストリートファイトではなく、それは綱引き。遡ること3カ月前、このBlog で以前紹介したHIVポジティブの子供たちを集めたカウンセリングのリクリエーション活動(文化祭と運動会のミックスみたいなカンジ?)に参加したときに綱引きをやったんですよね。そこで子供たちに交じってザラザラの綱を引きまくったボクの手のひらはボロボロになってしまい。気づいたら出血しておりまして。「アレ?血ぃ、出とるやんワシの手。これヤバくね?」と思った訳です。その日、宿舎に帰ってからHIVの専門医師(「眠り病」でも相談したシェアメイト)のチャールスに早速相談。

 

「今日のイベントでなあ綱引きやったら出血したんよ。心配じゃけえHIVテストしてくれんかのう(涙)」

「綱引きで感染?そんなん大丈夫に決まっとるやろ。どれどれ手のひら見してみい?」

「ほら、こんなカンジ。」

「ただのかすり傷やん、、、ってかもう全然、出血の跡ないやん。綱引きやから、直接の皮膚接触ないんやろ。全然、心配することあれへん。まあ100%安心とはいえんけどな。感染確率はほぼないで。」

「でもでも、やっぱ心配やんか。血とか出てたし。」

「しゃーないなぁ。今度、テストしちゃるきに。ただ万一感染しとっても潜伏期間があるんけんテストは2回やらんとアカンで。4月に一回目にやって結果がネガティブでも、2-3ケ月後にもう一回や。」

「うん、わかった。」

 

という経緯がありまして。今回、2回目のテストを受けた次第です。

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HIVテストキットを開封する病院ラボで働くスタッフたち。このひと箱で100人分のテストが可能。

今回は二回目だけど、やっぱりHIVテストを受けるのはドキドキです。まずはスクリーニング(第一次テスト)用のキットを開封。このスクリーニングテストでHIVの抗体反応を調べます。テストで抗体反応があった場合はHIVが体内に入った経歴があるということなので「ポジティブ(陽性)」ということになります。もしスクリーニングがポジティブの場合は精密検査(2次検査)でHIVの進行レベルを調べます。

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こちらがキットの中身。試験紙、採血用の針とチューブ、血液の希釈液の4点セット

まずは指先にチクっと針をさして血液を採取。

 

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それを試験紙の左側にたらして10分ほど待ちます。

(なんか小学生の時のリトマス試験紙みたいだ。)

 

すると試験紙の右側のコントロールと呼ばれる方に全て被験者に対して1本線が現れます。これは試験紙が正常に機能しているかどうかチェックするもので、もし線が現れなければ新しい紙を使って再検査です。左側は被験者(ペイシェント)と呼ばれ、血液中のHIV抗体の有無を調べます。もし左側に1本線が現れると結果はHIVポジティブ(陽性)。つまり右側一本だけの線ならネガティブ(陰性)で左右に1本ずつ線があらわれるとポジティブということになります。

目の前の試験紙を採血された自分の血液が浸透していきます。

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試験紙の左側(ペイシェント側)に希釈した血液をポタリとたらして、浸透するのをまちます。その間、約10分。

試験紙を眺めている10分の間「もし自分にポジティブの結果が目の前に現れたらどうなんやろなあ。」と想像してました。他人にバレたら再就職する場合は不利になるんだろーなあ。家族、親族との関係も結構気まずくなる可能性もあるよなあ。友人、知人も戸惑うだろうなあ。忘年会でフグ鍋とか行っても一緒にたべるの嫌がる人もでてくるだろうなあ。もしも六本木のキャバで王様ゲームが始まってもオレ一人仲間外れかなぁ...などなど。いろんな想像がアタマの中をかけめぐります。

 

そして“ドキドキワクワク”の10分間が経過。結果は、右側だけに線一本!ということでネガティブでした。(医師チャールスの言う通り、ボクはちょっと心配性だったのかもしれません。)

 

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テスト結果、右側(コントロール)だけに一本線が現れたので今回はネガティブ(陰性)です。ホッと一安心の瞬間。

もしポジティブだったら、、、医学的意味での心配事は以前にくらべてかなり軽減されているものの社会的な意味での心配事はまだまだとても大きいのが現実で。ボクはもう40代後半の事務のおっちゃんなので、HIVになった場合の社会的リスク(心配事)といえば多少の人間関係と忘年会のフグ鍋と王様ゲームくらい。でもこれが10代の若者だったらキッツイよなあ。就職、結婚、親子関係、恋人友人関係などなど山のように心配事(というか過酷な現実)ありまくり。そういった意味でHIVってARV薬とかの医療ケアと並行して、若い患者へのカウンセリングとかの心理ケアってマジで重要だよなあ。と改めて思った次第です。

 

もし読者の皆さんに“心当たり”がある方がいれば一度、テストどうっすか?お手軽、即効、無料です。

 

HIV検査 相談マップはこちらから

https://www.hivkensa.com/search/?mode=list&enc=%E3%81%82&prefecture=11

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やがて狂って、昏睡し、そして死ぬ「アフリカ睡眠病」の話

突然ですがハエに襲われたことあります?

実は先日、車で移動中にハエの猛攻にあいまして。その時、車内に侵入してきた一匹にチクリと刺されてしまいまして。アフリカではハチじゃなくてハエも人を刺すんですねえ。そして問題はそのハエの名前がツェツェバエだったてことなんです。おかげでちかごろちょっと憂鬱。

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この方が”悪魔の使い”の異名をもつツェツェバエさん。

もし読者の中にアフリカの熱帯病に詳しい人がいらっしゃったら、

「ま、マジでツェツェバエにやられたんけ!めっちゃヤバいやんけ!!!!!!」

とちょっとばかし興奮されてるかもしれません。

なにしろこのツェツェバエ「アフリカ睡眠病」という世にも恐ろしい病気を媒介する”悪魔の使い′”なんです。発病するとあの虎舞竜のロードの歌詞「眠れる森の少女」みたく永遠に目が覚めません。ウィキペディアの記述ではこう書かれています。

 

アフリカ睡眠病(アフリカすいみんびょう、sleeping sickness)は、ツェツェバエが媒介する寄生性原虫トリパノソーマによって引き起こされる人獣共通感染症である。病状が進行すると睡眠周期が乱れ朦朧とした状態になり、さらには昏睡して死に至る疾患であり、これが名前の由来となっている。

アフリカ睡眠病 - Wikipedia

下手な怪談なんかより、よっぽどこえーよウィキペディア

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恐怖のウィキペディアから拝借したツェツェバエの図

 

ちなみに昏睡状態にまるまえに結構な確率で精神錯乱に陥るんだそうで。そんな全然シャレにならん病気があったとは。そういう大切なことはケニア来る前に教えといてよ。そしてアフリカでは毎年5000人~7000人がこの睡眠病で死んでるとのこと。もうオレ刺されちゃったんだけど、大丈夫なのかしらん。

 

ハエの猛攻にあったのはウチの事務所から車で30分ほどのルマ地区(ツェツェバエとサバンナで有名)を移動中でした。ヒッチコックの「鳥」の再来かよ、とツッコミを入れたくなるほどの猛攻で。ハエが車を襲うってどういうことなん?そんなん「よんでますよ、アザゼルさん」みたいなブッっとんだギャグマンガだけの話かと思ってたんだけど。

f:id:st-maria1113:20180629053403p:plain本文にはほぼ関係ないけどハエの魔王”ベルゼブブさん”も登場する悪魔系マンガの最高峰。「よんでますよ、アザゼルさん」おススメです♪

 

しかしまさか、ハエが人間を襲うなんてことがリアル世界に存在するとは。

こちらが命掛けで撮影した全速力で人間を襲うツェツェバエの貴重な映像。

5秒間撮るのが精一杯でした。撮影するヒマがあったらハエ叩きしたほうがナンボかええやん。ただのブログ素材命を張ってどうするんや、わしゃほんまのアホじゃ。

 

その日は同僚と休日のドライブだったので乗っていた車は仕事用の"ちゃんとしたランクルじゃなくて地元の知り合いが所有している、窓ガラスが割れて後部座席のドアもイカれてる”壊れてたランクルだったんです。そこに数百匹の殺人バエが襲ってきまして。ドアや窓の割れ目、床の穴(なんでクルマの床に穴があるんだよ!?というツッコミはおいといて)からブーン、ブーンと容赦なく侵入してきます。同乗していた医師のマイクとチャールズはツェツェバエと睡眠病のリスクを理解してるので、ボク以上にちょっと焦っているご様子。そんな焦っている2人の医者をみると、素人のボクも焦ってくる訳で。車内ではおっさん3人がマジ顔でビシバシとハエを叩きまくりです。

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こちらはコンゴ共和国の「アフリカ睡眠病対策プロジェクト」で奔走している国境なき医師団の”ちゃんとしたランクル

皆が手にタオルをまいたり、スマホの裏側使ったり、血相変えてとにかくハエをつぶしまくって。ボクも手あたり次第にツブしてたつもりだったのですが。ふと気を抜いた瞬間に”チクッ”と足に痛みが!(話はちょっとズレますがこの"チクッ”とした痛み、子供の頃に母親の実家(鳥取県の大山山麓)にある牛牧場でアブに噛まれた時の痛みとまったく同じでちょっと懐かしかったのですが、そんなセンチメンタリズムに浸るヒマはなく)下を向いたら足の上にいるじゃん、ツェツェバエ!いたいけな少年だったあの夏の日、アブに刺された時と同じ感覚が肌に残っとるやん、どないしょ(涙)。

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ハエからの攻撃を警戒する三人組。この日は三人揃って休みだったので近所のサバンナまで楽しくドライブするはずがまさかの展開に。

 

ちなみに「恐怖のウィキペディア」によると、明確な睡眠障害(突然眠くなったり、逆に夜眠れなくなったり)などの自覚症状が出るまでには2-3年かかるとのこと。ただ症状が出るころにはすでに中枢神経がやられいるらしい。それって”死亡フラグ”が立ちまくりじゃん!

そんなこんなで近頃は「アフリカ睡眠病」の恐怖に悩まされてまして。心配で夜も眠れません、、、そう眠れない。アレ?これってもしかして、、、。

 

※と、こんなことを記事をかくと、心優しい皆様に心配をおかけしてしまうかもしれませんが「一回刺されたくらいでは感染リスクはめっちゃ、めっちゃ、めっちゃくちゃ低いからさあ。とえいあえず大丈夫じゃね?まあ確率はゼロじゃないけどね(笑)」と同乗していた医者からのファースト&セカンドオピニオンももらったので、どうかご安心くださいませ。

そして文中に写真も掲載しましたが、ボクの職場、国教なき医師団もコンゴを中心に「アフリカ睡眠病」対策プロジェクトを行ってます。ご興味ある方こちらのサイトもどうぞ。

アフリカ睡眠病を抑え込む——MSFチームが徹底追跡 | 活動ニュース | 国境なき医師団日本