国境なき事務員 (国境なき医師団の事務員の現場レポート)

2018年、汐留の広告代理店から国際医療NPO「国境なき医師団」へ転職。現在、アドミニストレーター(事務員)としてケニアでのHIV対策プロジェクトで働いてます。尚、このブログはあくまで高多直晴の個人的な経験や考えを掲載しています。国境なき医師団の公式見解とは異なる場合もありますのでご了解ください。

カネと魚と男と女 ケニアのラブホ事情

Are you work for FISH BUSINESS?

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港の近くで漁をする小型ボート。ちなみにエンジンはついていない。

ケニアではHIV検査の際、被験者の生活様式を把握するためにアンケート用紙が配布される。その中に気になる質問項目がった。それが冒頭に書いた「あなたは漁業関係者ですか?」という質問だ。どうしてHIV検査と漁業関係あるのかしらん?と思ったボクは同僚の医療コーディネーターにその理由を聞いてみた。「そうやなあ、日本人の高多にはこの質問はちょっと意外かもわからへんな。」といいつつ、彼女がHIVと漁業について説明してくれた。彼女の説明はおおよそ以下のようなものだった。

 (彼女の話がスワヒリ語なまりの英語だったので、なんとなく言葉使いを大阪弁っぽくしてみました。スンマセン。)

彼女曰く。

ビクトリア湖周辺の漁港はHIV感染の震源地みたいになっとんねん。なんでかって港に集まる魚売りの女の中にはな、仕入れ代金のかわりにカラダで支払うヤツがおんねん。しょーもない話なんやけどな。漁師(オトコ)の方も一発ヤラせてくれる魚売りには優先的にデカくてええ魚を渡すんや。特に若い女の魚売りの中には身体売って、魚を買うヤツも出てくんねん。相場はまあ一回千円程度、1FUCKで10FISHってとこやね。それにしても安いやろ。ほんで若い女が大きいヤツ持っていきよるから、港で小魚売ってんのは年増のおばちゃんが多いねん。それに漁師はボートで湖のまわりを移動するやろ。ほんでアイツらが媒介になってHIVをまき散らしとるっちゅうわけや。ホンマ、シャレにならんで。』

"10fish=1Fuck" って妙にゴロがいいなぁ。スゲー説明だったけどホンマかいな?にわかには信じがたい。もっと詳しい事情を調べたいと思って「HIV FISH BUSINESS」でググってみたら、まあ記事やら統計やらがバンバン出てきました。これってHIV業界の常識なの?みたいな状態です。たとえばこんな研究記事とか。

ビクトリア湖Fish for Sexからの脱出」

https://www.microfinance-lab.org/research/12/

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 ということで休みの日に近所の港にフィールドワークに行ってみた。といっても実際はただ散歩して写真撮っただけなんだが。

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この日、ボクが見た中で一番デカい魚を手にしていた若い魚売り。もちろんデカい魚を持った魚売り全員がセックスと交換で魚を購入しているわけではない。

港をうろうろ歩いているとき、なぜか矢野顕子の名曲ラーメン食べたいがリフレインしていた。男もつらいけど、女もつらいのよ♪

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魚の仕分けを仕切る漁師の兄ちゃん。もちろん漁師全員がセックスと引き換えにいい魚をあてがっている訳ではない。

今まで港には何回もいってたけど、そういう視点で再訪するともう港全体が色街に見えてくる。

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その日の生活がかかってるから、セリに参加する魚売りのおばちゃん達も真剣そのもの。

実際はそこまであからさまではないのだが、どことなく「男と女の欲望が渦巻く、オトナの世界」の様相に見える。そしてこれが港近くのラブホ。その名もブリーズホテル

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港側にカフェを兼業の受付があり、裏口をでるとその向こう側に個室がある。HOTELという文字がなければただのトタン小屋にしかみえんぞ!?いやまあHOTELの文字があってもただのトタン小屋なんだが。

「皆さん、ここでヤラれるんですか?」というのが正直な感想。

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ケニア国内でもこの地域のHIV罹患率が異常に高いのはこの漁業取引にも大きな原因がある。(ちなみにこの漁業とHIVの相関関係はケニアだけでなく、アジアを含めた世界的な傾向でもあるらしい。)こういう商取引(カネの代わりにカラダで払う)のは漁業だけでなく、この地域の基幹産業である砂糖工場でも行われているとのこと。身体をはって(売って?)生きるのは、個人的に一概に悪いとは思わないけれど。HIVを含めた命にかかわるウイルス感染とその拡大リスクを考えると代償が大きすぎる訳で、こういう場所と現実を目の当たりにすると、かなりの苛立たしさを覚えた。

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港にいたノラ犬。すぐ先のセリの喧騒を横目に道の真ん中でくつろいでいた。

こうなると、もう医者だけの仕事じゃなくねえか。HIV対策(特に予防)を含めた伝染病対策って、医療と並行して民俗学社会学それにミクロ経済学だっけ?あとマイクロファイナンス?とかとくわからんけどいろいろ統合的にアプローチせんといかんと解決できんよな。ということを今回のフィールドワークで実感した次第。もちろんWHOや各国政府、ウチの団体もそういう統合的なアプローチを試みてるんだけど。長年続いている文化的習慣って簡単に変わんないんだよね。とくに男と女に金からむともう理性じゃないところで人は動くからなぁ。