医療チームの撤退はイコール”患者の死”だったりする訳で。
ここに一台のプロジェクターがある。エイズ・HIVプロジェクトの予算会議で使うために倉庫から取り出してきたヤツだ。ちなみにボクは事務のおじさんなのでプロジェクトの予算管理は大事な仕事のひとつ。
世界中から頂いた貴重な寄付なので無駄遣いは許しません、、、キラッ。
それはさておきこのプロジェクター、SONYのDLP-EX100 という機種で2010年の製造の逸品だ。少し古いしサイズも大きめだけどシンプルで使い勝手がとても良い。
プロジェクターのセッティングをしていたら上司でプロジェクト統括責任者、ドクター へモッドが事務室に入ってきた。そしてこのプロジェクター見て一言。
「おぉ、このプロジェクターはモガディッシュから来たヤツやんけ!」
「ソマリアの備品がこっちに回ってきたんでしょうね。」
「たしか2011年にここでウチのスタッフは二人殺されとるけんのう。」
「マジっすか!?」
「知らんかったんけ?ソマリア全体ではウチのスタッフは全部で16人死んどるんぞ。」
(ソマリアではある程度は死んでたと思っていたけど16人か。さすがソマリア。そして、さすが弊社?ハンパないのう。)
そして、このプロジェクターの上面にデカデカと【MOGADISHU】(モガディッシュ)のステッカーが貼ってある。モガディッシュというのはその筋の人にはちっとは名が知れているソマリアの首都名だ。ちなみにソマリアはケニアのお隣さんで、あっち側の過激派アルシャバブとはとても仲が悪い。二週間ほど前にも国境付近でケニア軍兵士7名が爆破で殺害されている。ソマリアはここ十数年ほぼ無政府状態が続いていて国連もお手上げ。まあざっくりそんな国の首都がモガディシオ。そして米軍が内戦に軍事介入した時の大失敗作戦のストーリー、映画「ブラックホークダウン」(ブラックホークの墜落)の舞台でもある。どうでもいい話だけど、映画公開時にボクは作品名を「ブラックホークタウン」(ブラックホークの街)だと勘違いして恥ずかしい思いをした記憶があるんですがそれはおいといて。
ちなみにウチの団体は二人が殺された翌年2012年、ソマリア国内でそれにもめげず延べ1500人のスタッフが医療活動を行い62万4千人を診察。そのうち4万1千人の入院を受け入れていた。しかし2013年に完全撤退している。理由はウチのスタッフが現地の武装勢力や政府関係者(ほぼ無政府だけど)から直接の攻撃対象になったことが決め手だった。www.afpbb.com
紛争地域で医療団体が撤退するというのは、軍事団体が撤退するのと少し意味合いが違う。何が違うのかって、それは治療中の患者がいるということ。この場合は年間延べ4万人いた入院患者と62万人いた患者への治療を放棄することを意味する。中には瀕死の患者も沢山いるわけで。その患者を置き去りにして撤退する医療チームメンバーの葛藤はとてつもなく苦く、重かったハズだ。そして紛争地域の緊急医療プロジェクトは多くの場合、撤退と継続の狭間で活動している。ボク自身も新人研修では緊急避難時のプロトコル(作業手順)の演習をけっこうやらされた。できればそんな場面には出くわしたくないものだ。
日本にいると「世界で活躍するメイドインジャパン」みたいなフレーズをよく耳にするけれど。2010年に日本で製造されパリの本部経由で戦火のモガディッシュに運び込まれたプロジェクター。ケニアに来た今もなくてはならない頼れるヤツとして活躍中だ。数奇な運命をたどってケニアに逃れてきたこの渋いマシンを眺めながら「モガデッシュで殺された二人のスタッフもコレ使って、スタッフの予算資料とか見てたのかもなあ。」とか思ってすこし感慨深い本日の会議でした。