国境なき事務員 (国境なき医師団の事務員の現場レポート)

2018年、汐留の広告代理店から国際医療NPO「国境なき医師団」へ転職。現在、アドミニストレーター(事務員)としてケニアでのHIV対策プロジェクトで働いてます。尚、このブログはあくまで高多直晴の個人的な経験や考えを掲載しています。国境なき医師団の公式見解とは異なる場合もありますのでご了解ください。

やがて狂って、昏睡し、そして死ぬ「アフリカ睡眠病」の話

突然ですがハエに襲われたことあります?

実は先日、車で移動中にハエの猛攻にあいまして。その時、車内に侵入してきた一匹にチクリと刺されてしまいまして。アフリカではハチじゃなくてハエも人を刺すんですねえ。そして問題はそのハエの名前がツェツェバエだったてことなんです。おかげでちかごろちょっと憂鬱。

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この方が”悪魔の使い”の異名をもつツェツェバエさん。

もし読者の中にアフリカの熱帯病に詳しい人がいらっしゃったら、

「ま、マジでツェツェバエにやられたんけ!めっちゃヤバいやんけ!!!!!!」

とちょっとばかし興奮されてるかもしれません。

なにしろこのツェツェバエ「アフリカ睡眠病」という世にも恐ろしい病気を媒介する”悪魔の使い′”なんです。発病するとあの虎舞竜のロードの歌詞「眠れる森の少女」みたく永遠に目が覚めません。ウィキペディアの記述ではこう書かれています。

 

アフリカ睡眠病(アフリカすいみんびょう、sleeping sickness)は、ツェツェバエが媒介する寄生性原虫トリパノソーマによって引き起こされる人獣共通感染症である。病状が進行すると睡眠周期が乱れ朦朧とした状態になり、さらには昏睡して死に至る疾患であり、これが名前の由来となっている。

アフリカ睡眠病 - Wikipedia

下手な怪談なんかより、よっぽどこえーよウィキペディア

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恐怖のウィキペディアから拝借したツェツェバエの図

 

ちなみに昏睡状態にまるまえに結構な確率で精神錯乱に陥るんだそうで。そんな全然シャレにならん病気があったとは。そういう大切なことはケニア来る前に教えといてよ。そしてアフリカでは毎年5000人~7000人がこの睡眠病で死んでるとのこと。もうオレ刺されちゃったんだけど、大丈夫なのかしらん。

 

ハエの猛攻にあったのはウチの事務所から車で30分ほどのルマ地区(ツェツェバエとサバンナで有名)を移動中でした。ヒッチコックの「鳥」の再来かよ、とツッコミを入れたくなるほどの猛攻で。ハエが車を襲うってどういうことなん?そんなん「よんでますよ、アザゼルさん」みたいなブッっとんだギャグマンガだけの話かと思ってたんだけど。

f:id:st-maria1113:20180629053403p:plain本文にはほぼ関係ないけどハエの魔王”ベルゼブブさん”も登場する悪魔系マンガの最高峰。「よんでますよ、アザゼルさん」おススメです♪

 

しかしまさか、ハエが人間を襲うなんてことがリアル世界に存在するとは。

こちらが命掛けで撮影した全速力で人間を襲うツェツェバエの貴重な映像。

5秒間撮るのが精一杯でした。撮影するヒマがあったらハエ叩きしたほうがナンボかええやん。ただのブログ素材命を張ってどうするんや、わしゃほんまのアホじゃ。

 

その日は同僚と休日のドライブだったので乗っていた車は仕事用の"ちゃんとしたランクルじゃなくて地元の知り合いが所有している、窓ガラスが割れて後部座席のドアもイカれてる”壊れてたランクルだったんです。そこに数百匹の殺人バエが襲ってきまして。ドアや窓の割れ目、床の穴(なんでクルマの床に穴があるんだよ!?というツッコミはおいといて)からブーン、ブーンと容赦なく侵入してきます。同乗していた医師のマイクとチャールズはツェツェバエと睡眠病のリスクを理解してるので、ボク以上にちょっと焦っているご様子。そんな焦っている2人の医者をみると、素人のボクも焦ってくる訳で。車内ではおっさん3人がマジ顔でビシバシとハエを叩きまくりです。

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こちらはコンゴ共和国の「アフリカ睡眠病対策プロジェクト」で奔走している国境なき医師団の”ちゃんとしたランクル

皆が手にタオルをまいたり、スマホの裏側使ったり、血相変えてとにかくハエをつぶしまくって。ボクも手あたり次第にツブしてたつもりだったのですが。ふと気を抜いた瞬間に”チクッ”と足に痛みが!(話はちょっとズレますがこの"チクッ”とした痛み、子供の頃に母親の実家(鳥取県の大山山麓)にある牛牧場でアブに噛まれた時の痛みとまったく同じでちょっと懐かしかったのですが、そんなセンチメンタリズムに浸るヒマはなく)下を向いたら足の上にいるじゃん、ツェツェバエ!いたいけな少年だったあの夏の日、アブに刺された時と同じ感覚が肌に残っとるやん、どないしょ(涙)。

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ハエからの攻撃を警戒する三人組。この日は三人揃って休みだったので近所のサバンナまで楽しくドライブするはずがまさかの展開に。

 

ちなみに「恐怖のウィキペディア」によると、明確な睡眠障害(突然眠くなったり、逆に夜眠れなくなったり)などの自覚症状が出るまでには2-3年かかるとのこと。ただ症状が出るころにはすでに中枢神経がやられいるらしい。それって”死亡フラグ”が立ちまくりじゃん!

そんなこんなで近頃は「アフリカ睡眠病」の恐怖に悩まされてまして。心配で夜も眠れません、、、そう眠れない。アレ?これってもしかして、、、。

 

※と、こんなことを記事をかくと、心優しい皆様に心配をおかけしてしまうかもしれませんが「一回刺されたくらいでは感染リスクはめっちゃ、めっちゃ、めっちゃくちゃ低いからさあ。とえいあえず大丈夫じゃね?まあ確率はゼロじゃないけどね(笑)」と同乗していた医者からのファースト&セカンドオピニオンももらったので、どうかご安心くださいませ。

そして文中に写真も掲載しましたが、ボクの職場、国教なき医師団もコンゴを中心に「アフリカ睡眠病」対策プロジェクトを行ってます。ご興味ある方こちらのサイトもどうぞ。

アフリカ睡眠病を抑え込む——MSFチームが徹底追跡 | 活動ニュース | 国境なき医師団日本