国境なき事務員 (国境なき医師団の事務員の現場レポート)

2018年、汐留の広告代理店から国際医療NPO「国境なき医師団」へ転職。現在、アドミニストレーター(事務員)としてケニアでのHIV対策プロジェクトで働いてます。尚、このブログはあくまで高多直晴の個人的な経験や考えを掲載しています。国境なき医師団の公式見解とは異なる場合もありますのでご了解ください。

ぜんぜん笑えない「いじわるばあさん」の話。

日曜日に立ち会ったHIVキャリアの若者とちびっ子を対象にしたイベント"Young Adolescents Champion"(前号参照)で二人の少年に出会った。名前はオサム(仮)とメルケデス(仮)。彼らは閉会式のスピーチでこれまで生きてきた18年間を静かに淡々と語ってくれた。そして静かに語っていたその内容は凄まじかった。この手の話(言い方は悪いがお涙頂戴的な生い立ち話)に慣れているはずのケニア人医師マイケルもボクの隣で若干涙ぐみならがら話を聞いていた。

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イベントの閉会式。自分と同じHIVキャリアの若者や子供を前にスピーチするオサム(仮)

さて本題、オサムとメルケスは今年高校を卒業する予定の18才の歳の若者だ。

 彼らはイベントの閉会式で約100人の参加者(全員HIVキャリアの若者)を前にスピーチした。以下、彼らのスピーチをなるべく忠実に翻訳してみようと思う。とはいえスワヒリ語を交えた英語だったので、理解できた部分のみ抜粋してます。

 

◆まずはオサムのスピーチから

『僕は生まれた時からHIVポジティブでした。母がHIVキャリアだったからです。いわゆる母子感染でした。そして父は僕が生まれる前にエイズを発症して亡くなっていました。母も僕が生まれてから数か月後に死にました。3人兄弟だったのですが、僕一人だけがHIVポジティブでした。たぶん兄二人を妊娠したとき、まだ母はHIVキャリアではなかったのだと思います。

両親が死んでしまったので、しばらくして僕ら兄弟は祖母に引き取られました。祖母は僕がHIVであること知っていました。そのことで彼女からひどい差別を受けました。二人の兄とは全く違う扱いでした。そして僕がHIVの薬(ARV)飲むの見ると、僕の祖母はひどく怒ることがありました。理由はわかりません。それが嫌で小学生の時に薬をのむのをやめてしまいました。すると徐々に体内のHIVが増えていき体調が悪化しました。そして動くことすらつらい状態になりました。

それを見た祖母は「お前はもうすぐエイズで死ぬのだから、この家にいても仕方がない。病院にいっても無駄だ。死ぬまでケアハウス(エイズ患者のためのホスピス)で暮らした方がいい。」といって僕を家から追い出しました。ケアハウスに連れていかれたあとも病状は悪化するばかりでした。でも僕は死にたくなかった。本当に死ぬのが怖かった。だから一人でケアハウスを出て近くの病院に行きました。

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遠隔地診療所の一室。オサムもこんな診療所で診察を受けていた。

第一段階の薬はしばらく飲んでいなかったのでウイルスに耐性ができていてもう使えませんでした。そこで僕は第二段階のHIV薬(ARV)などの治療を受けることになりました。治療は運よく成功しHIVの数値は下がりました。ARVのおかげで僕は死なずにすみました。そして退院しました。でも帰るところがありません。病院の先生は仕方なく僕は祖母の家にもどしました。祖母は生きて帰ってきた僕をみて本当に驚きました。死んでいるはずの孫が元気に帰ってきたからです。その後はずっと祖母の家に住んでいます。そしてまた学校に通うようになりました。学校の先生たちはHIVにとても理解があり、いろいろな面で助けてくれます。先生のサポートもあり学校でHIVであることをカミングアウトしました。僕の場合はカミングアウトしてよかったと思っています。とにかく僕は今も生きています。皆さんに一つだけ言っておきたいことがあります。どうかHIV薬(ARV)をきちんと毎日飲んでください。どんなことがあっても飲み続けてください。もしすべてのARVへの耐性ができてしまったら死ぬしかないんです。そうならないために薬は飲み続けて下さい。僕のスピーチはこれで終わります。

以上。

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参加者みんなで輪になってダンス♪♪

オサムは特に感情的になることもなく、生まれてから18年の間に彼に降りかかった事実を淡々と語っていた。特に祖母への恨み節をいうでもなく、自分の人生を悲観するでもなく。でも最後のフレーズだけはとても力を込めて訴えていた。 真剣に耳を傾ける目の前の小学生から高校生の同世代の若者に向けて「薬をきちんと飲むように。そうじゃないとオレたち死んじゃうんだよ。」

いまブログ書きながら長谷川町子の「いじわるばあさん」ってマンガを思い出した。たまに度が過ぎるて全然笑えんヤツもあったなぁ、でも今回はちょっとレベルが違う。

ということで本日の教訓「天は自ら助くる者を助く」

次回は二人目の若者メルケデス(仮)のスピーチです。