国境なき事務員 (国境なき医師団の事務員の現場レポート)

2018年、汐留の広告代理店から国際医療NPO「国境なき医師団」へ転職。現在、アドミニストレーター(事務員)としてケニアでのHIV対策プロジェクトで働いてます。尚、このブログはあくまで高多直晴の個人的な経験や考えを掲載しています。国境なき医師団の公式見解とは異なる場合もありますのでご了解ください。

ちょっと、しょっぱいゴハンの話

 

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(パリでは外食も楽しいけれど、たまにはこんな食材を使って自炊するのも楽しかったりする。)

 

「今日の晩メシどこに行く?」一日の研修が終わるとメンバーの一人がSNS"what's up"のグループでみんなに声掛けしてくる。さてさて楽しいゴハンの時間のはじまり。国境なき医師団の本部オフィスはフランス革命で有名なバステューユ広場の近くにある。パリの真ん中あたりだ。つまりうまい料理屋はそこらへんに溢れそていた。でも新人研修のメンバーにとって晩御飯はちょっとした問題だった。

 何が問題って?イスラム教徒は豚肉を食べない。ベジタリアンは肉を食べない。アフリカの内陸部出身のメンバーの一人はタコと貝と魚も食べない。酒を飲まないメンツも多い。と言うようなことはではなかった。メンバーの多くはアジア、アフリカや中東などいわゆるグローバルな職場での実務経験がある。だからそういうありがちな食文化の違いには慣れっこだった。しかもここは食の都パリ。フレンチ、イタリアン、中華はもちろん、レバノンやシリアなどのイスラム圏の料理も多い。移民の多いアルジェリアやモロッコ料理などアフリカ系の店も街に溢れている。和食もインド、タイ、トルコも普通に食べることができる。ではなにが問題だったのか?それは「値段」だった。

 パリみたいな物価の高い街で世界各国から集まったメンバーが一緒にゴハンを食べる場合、一番のハードルはは値段だ。軽くワインでも飲みながら晩飯を食べれば安く見積もっても20~30ユーロ(2500~3750円くらい)はかかる。これがナイロビあたりだったら一人5ユーロもあればビールとステーキでお腹いっぱいになるのだが。ここではそうはいかない。5ユーロだとコーラとポテトフライを買ったら終わってしまう。30ユーロは我々のような先進国の住人とっては大きな額でじゃないけれど。メンバーの中にはルワンダシエラレオネといったアフリカの中でも経済的に厳しい国の出身者もいる。彼らにとって30ユーロは一週間の食事代よりも高いのだ。本部から幾ばくかのゴハン代補助は出ていたけれど。それでも彼らにとって晩飯代に毎回一週間分の支出を強いられるのは厳しい。たとえていうなら「ファミレスでパスタとコーヒーのセットを1万5000円だった(泣)」みたいな感じだろうか。

 結果的に晩飯時になるとボクらはそれぞれの財布の中身に応じで、自然といくつかのグループに分かれていった。”財布が重い”チームはフレンチやモロッコ料理、たまにインド料理にもいってパリのレストランを堪能した。そして”財布が軽い”チームは近所のスーパーで食材を買い込んで自炊していた。まあ仕方ないといえば仕方ないんだけど。「同じ釜の飯を食う」文化圏でそだったボクとしては、ちょっとせつない。パリの晩ゴハンはちょっとしょっぱい味だった。